福島原発事故とこれからの生活を考えるblog

by原発事故被害者支援司法書士団 team of shihosyoshi to support compensation for nuclear accident victims         

福島第一原発の事故で失ったものは何でしょうか?
様々なものが失われました。
失われたものを取り戻すために、何をすべきなのでしょうか。

2018年08月

20ミリシーベルトの虚実(3)

20ミリシーベルトの虚実(3)

MG2384

避難区域指定の考え方


政府の見解によれば20ミリシーベルト基準は国際放射線防護委員会 icrp2007年勧告に従い最も厳しい値を採用したとされています。

国際放射線防護委員会は、2007年の勧告で、一年間の被曝限度となる放射線量を平常時には1ミリシーベルト未満、緊急時には20から100ミリシーベルト、緊急事故後の復旧時には1~20 mmシーベルトと定めていますので緊急時の基準としては政府の言うように「最も厳しい値」であると見ることもできます。

 しかし、チェルノブイリにおいては東日本大震災で第一原発事故が起きた当時すでに5ミリシーベルト基準を採用していました。なぜ当時のチェルノブイリにおける基準を採用しないで20ミリシーベルト基準を採用したのでしょうか 。その答えを探すために、まず国際放射線防護委員会 icrp2007年勧告の考え方を見てみましょう。


 icrpから出された2007年勧告では、被災地における被ばくの状況を、「緊急時被ばく状況」と「現存被ばく状況」という二つに分けて考えています。

「緊急時被ばく状況」とは、原発事故によって住民の避難が必要とされるような状況をさしています。つまり、そこには住めない状況を指しています。そして、「現存被ばく状況」とは、それに続く被ばく状況を指します。「現存被ばく状況」は、汚染区域に汚染地域に人々が居住することを認めるための決定を行う時に設定されるとされ、設定されるレベルは「社会的および経済的因子を考慮に入れて,それを上まわらないように,また全員の個人被ばくを合理的に達成可能な限り低くこのレベル未満に引き下げるよう努めるべき線量のレベル」であるとしています(後記注1.2.3参照)。そして「適切な参考レベル」は,できれば委員会によって提案された1~20mSv のバンドで選ばれるべきであると示唆さ れる。」としています。

 日本政府はこの「緊急時被ばく状況」基準の考え方を参考に、20mSv以上の被曝が予想される地域を避難区域として指定したと考えられます(注1図参照)。

 最終的に、福島第一原発事故に関する避難区域は、帰宅困難地域(50ミリシーベルトを越す区域)居住制限区域(25~50ミリシーベルトの区域地域)避難指示解除準備区域(20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域)の3区域に見直され現在に至っています。いずれの区域でも居住が許されないことに変わりはなく、いわゆる「緊急時被ばく状況」にある地域であることに変わりはありません。


 icrp の考え方は「緊急時被ばく状況」は 「現在被ばく状況」に移行するための 一時的な状況として捉えています。すなわち、「現在被ばく状況」は、「汚染地域に人々が居住することを認めるための決定を行うときに設定される。」とし、「緊急時被ばく状況」を脱しても防護措置は継続して必要であるという考え方をとっています。 これに対して日本政府の考え方は20 mm シーベルトは帰還が可能かどうかの目安であり、被災地の住民が強制避難指示が解除された段階でどのような権利を有しているのかという点や、それ以後の防護措置(Icrpにおける「現在被爆状況」)については曖昧なままです。

 東電の損害賠償に関しては、強制避難指示が解除された地域においては損害賠償もそれに従って原則的に終了するという方針が示されています。しかし、icrp の考え方に従えば、強制避難指示が解除されたからといって防護措置を取る必要がなくなるのではなく、継続して防護措置が必要な状況にあると考えられるので、当然、第一原発事故に起因する損害も継続して発生していると考えるのが筋なのではないでしょうか。


注1

国際放射線防護委員会ICRP

Publication 109

原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護

に対する委員会勧告の適用

2008年10月 主委員会により承認

(公益社団法人日本アイソトープ協会)

https://www.jrias.or.jp/books/cat/sub1-01/101-14.html


「緊急時被ばく状況に続く現存被ばく状況の場合,参考レベルは緊急時被ばく状況の 末期,すなわち,汚染地域に人々が居住することを認めるための決定を行うときに設定され る。選択された参考レベルは,社会的および経済的因子を考慮に入れて,それを上まわらない ように,また全員の個人被ばくを合理的に達成可能な限り低くこのレベル未満に引き下げるよう努めるべき線量のレベルを表す。」


注2

ICRP Publication 109

「緊急時被ばく状況に続く現存被ばく状況の場合,放射線源は制御可能になるが,状況の制御可能性は困難なままであり,日常生活において住民は常に警戒することが求められる。これは,汚染地域に居住する住民にとって,また,総じて社会にとって重荷となる。しか しながら,住民および社会のいずれも被災した地域に居住し続けることに便益を見出すであろ う。国は一般にその領土の一部を失うことを受け入れることはできず,また住民のほとんどは 非汚染地域に(自発的であってもなくても)移住させられるよりも一般に自分の住居に留まる方を好んでいる。その結果,汚染レベルが持続可能な人間活動を妨げるほど高くない場合,当 局は人々に汚染地域を放棄させるのではなく,むしろ汚染地域での生活を継続するために必要 なすべての防護措置を履行しようとするであろう。これらを考慮すれば,適切な参考レベル は,できれば委員会によって提案された 1~20 mSv のバンドで選ばれるべきであると示唆さ れる。」


注3

ICRP Publication 109

緊急時被ばく状況における人々の防護のための委員会勧告の適用  総括

「一般に,緊急時被ばく状況で用いられる参考レベルの水準は,長期間のベンチマークとしては容認できないであろう。通常このような被ばくレベルが社会的・政治的観点からは耐えうるものではないからである。したがって,政府と規制当局またはそのどちらかが,ある時点で,典型的には委員会によって勧告されている 1 ~ 20 mSv/ 年の範囲の下方に,新しい参考レベルを確認し,設定しなければならないであろう。」


                                  (いしかわ)

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20ミリシーベルトの虚実(2)

20ミリシーベルトの虚実(2)

20188

国際放射線防護委員会ICRPの防護基準は安全の 目安とは異なる。


 防護基準はあくまで緊急時に政府がどういう対応を取りうるかという防護支援策選定の目安となる基準であって、これを下回れば安全であるという基準ではありません。


 考えてみればすぐわかることですが、人の放射線に対するに対する耐性は通常時および緊急時という時間の要素や環境・状況の変化で大きく異なることはないというのは、ごくごく普通な考え方でしょう。

 原発事故の前と後とで人間の放射線に対する耐性力が変わらないのであれば、これ以下であれば一応安全という1mmシーベルトから、20ミリシーベルトまで基準が上がったということは、安全に対する避難者のリスクもそれに従って上がったと考えるのが極めて常識的な考えであり、あえて原発事故直後の緊急措置として政策的にこれを採用したと解釈するのが筋ではないでしょうか。

 つまり、安全に対するリスクを上げることによって政策的に適切な緊急時の対処を選択できるようにするための基準というのが防護基準の正しい解釈ではないかと思うのです。

 そうでなければ防護基準が緊急時あるいは通常時によって変わる意味がわからなくなってしまいます。つまり防護基準は、まさしく緊急時から平常時に戻る間の基準であり、その後平常時に戻るまでのプログラミング過程の重要性を視野に入れたものであるということが指摘できます。

 チェルノブイリにおいては当初は100ミリシーベルトの基準を設けていましたが5年後にはその基準は5ミリシーベルトまで下がっています。一方、日本は当初に定めた20シーベルトの基準が7年以上経った今でも維持されています。これはチェルノブイリと大いに違う点です。

 福島においては平常時(一応1mmシーベルト以下 注2)に至るまでの過程でどのような政策を取り得るのがベストなのかという検討とその後の政策実行スピードがあまりにも遅くなおざりにされているような気がします。

 また政府の見解ではチェルノブイリに比較して日本の基準はかなり厳格な基準を採用したように述べています。しかし、防護基準が策定されたのは2007年で1986年のチェルノブイリ事故の発生当時にはその基準はありませんでした。従ってチェルノブイリと福島と同列にその基準を当てはめて比較することは無理があるのです。(もっとも政府がチェルノブイリを意識していることは確かなようですが)

 チェルノブイリは、5年後に大幅にその支援の政策を変えました。その政策の中では帰還が困難な地域を除く地域において、リスクを取りながら居住するか他の地域に移住するかの選択権を避難者に与えています(いわゆる移住権の考え方)。この被災者の避難・居住の選択の自由を保障する政策をとっていることが重要です

 日本でもこうした考え方参考にして子供被災者支援法が施行されたといわれていますが、その実はチェルノブイリと違い、帰還を原則とした考え方にバイアスがかかっています。それでもこの法は自主避難者や強制避難地域以外の被害者に対する支援に対する配慮がされている等、運用によっては画期的なものになり得たのですが、その後の政策実現過程において子供被害者支援法の精神はスポイルされたものとなってしまいました。
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          環境省 事故の状況Q&Aより


注2

(国際放射線防護委員会ICRP 原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用 付属書A. 長期汚染地域に関する歴史的経験)

「2001年,“チェルノブイリ原子力発電所での災害によって被災した市民の社会的保護”に関する法律は,修正され,明確化された。その時,生活と仕事の条件に何の制限も課されないような地域では,住民の(外部および内部の)平均総被ばくが 1 mSv/年(バックグラウンドを除く)を超えるべきではないと定められた。この法律は以下の事項を規定した。

● 住民の平均被ばくが 1 mSv/年を超える場合,防護措置を実施しなければならない;

● 住民の平均被ばくが 0.1~1 mSv/年である場合,被ばくを低減するための対策を取り止めるべきではないが,状況に適応させるべきである;

● 住民の平均被ばくが 0.1 mSv/年未満である場合,防護措置は必要ない。」


                                  (いしかわ)



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