20ミリシーベルトの虚実(3) |
避難区域指定の考え方
政府の見解によれば20ミリシーベルト基準は国際放射線防護委員会 icrp2007年勧告に従い最も厳しい値を採用したとされています。
国際放射線防護委員会は、2007年の勧告で、一年間の被曝限度となる放射線量を平常時には1ミリシーベルト未満、緊急時には20から100ミリシーベルト、緊急事故後の復旧時には1~20 mmシーベルトと定めていますので緊急時の基準としては政府の言うように「最も厳しい値」であると見ることもできます。
しかし、チェルノブイリにおいては東日本大震災で第一原発事故が起きた当時すでに5ミリシーベルト基準を採用していました。なぜ当時のチェルノブイリにおける基準を採用しないで20ミリシーベルト基準を採用したのでしょうか 。その答えを探すために、まず国際放射線防護委員会 icrp2007年勧告の考え方を見てみましょう。
icrpから出された2007年勧告では、被災地における被ばくの状況を、「緊急時被ばく状況」と「現存被ばく状況」という二つに分けて考えています。
「緊急時被ばく状況」とは、原発事故によって住民の避難が必要とされるような状況をさしています。つまり、そこには住めない状況を指しています。そして、「現存被ばく状況」とは、それに続く被ばく状況を指します。「現存被ばく状況」は、汚染区域に汚染地域に人々が居住することを認めるための決定を行う時に設定されるとされ、設定されるレベルは「社会的および経済的因子を考慮に入れて,それを上まわらないように,また全員の個人被ばくを合理的に達成可能な限り低くこのレベル未満に引き下げるよう努めるべき線量のレベル」であるとしています(後記注1.2.3参照)。そして「適切な参考レベル」は,できれば委員会によって提案された1~20mSv のバンドで選ばれるべきであると示唆さ れる。」としています。
日本政府はこの「緊急時被ばく状況」基準の考え方を参考に、20mSv以上の被曝が予想される地域を避難区域として指定したと考えられます(注1図参照)。
最終的に、福島第一原発事故に関する避難区域は、帰宅困難地域(50ミリシーベルトを越す区域)居住制限区域(25~50ミリシーベルトの区域地域)避難指示解除準備区域(20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域)の3区域に見直され現在に至っています。いずれの区域でも居住が許されないことに変わりはなく、いわゆる「緊急時被ばく状況」にある地域であることに変わりはありません。
icrp の考え方は「緊急時被ばく状況」は 「現在被ばく状況」に移行するための 一時的な状況として捉えています。すなわち、「現在被ばく状況」は、「汚染地域に人々が居住することを認めるための決定を行うときに設定される。」とし、「緊急時被ばく状況」を脱しても防護措置は継続して必要であるという考え方をとっています。 これに対して日本政府の考え方は20 mm シーベルトは帰還が可能かどうかの目安であり、被災地の住民が強制避難指示が解除された段階でどのような権利を有しているのかという点や、それ以後の防護措置(Icrpにおける「現在被爆状況」)については曖昧なままです。
東電の損害賠償に関しては、強制避難指示が解除された地域においては損害賠償もそれに従って原則的に終了するという方針が示されています。しかし、icrp の考え方に従えば、強制避難指示が解除されたからといって防護措置を取る必要がなくなるのではなく、継続して防護措置が必要な状況にあると考えられるので、当然、第一原発事故に起因する損害も継続して発生していると考えるのが筋なのではないでしょうか。
注1
国際放射線防護委員会ICRP
Publication 109
原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護
に対する委員会勧告の適用
2008年10月 主委員会により承認
(公益社団法人日本アイソトープ協会)
https://www.jrias.or.jp/books/cat/sub1-01/101-14.html
「緊急時被ばく状況に続く現存被ばく状況の場合,参考レベルは緊急時被ばく状況の 末期,すなわち,汚染地域に人々が居住することを認めるための決定を行うときに設定され る。選択された参考レベルは,社会的および経済的因子を考慮に入れて,それを上まわらない ように,また全員の個人被ばくを合理的に達成可能な限り低くこのレベル未満に引き下げるよう努めるべき線量のレベルを表す。」
注2
ICRP Publication 109
「緊急時被ばく状況に続く現存被ばく状況の場合,放射線源は制御可能になるが,状況の制御可能性は困難なままであり,日常生活において住民は常に警戒することが求められる。これは,汚染地域に居住する住民にとって,また,総じて社会にとって重荷となる。しか しながら,住民および社会のいずれも被災した地域に居住し続けることに便益を見出すであろ う。国は一般にその領土の一部を失うことを受け入れることはできず,また住民のほとんどは 非汚染地域に(自発的であってもなくても)移住させられるよりも一般に自分の住居に留まる方を好んでいる。その結果,汚染レベルが持続可能な人間活動を妨げるほど高くない場合,当 局は人々に汚染地域を放棄させるのではなく,むしろ汚染地域での生活を継続するために必要 なすべての防護措置を履行しようとするであろう。これらを考慮すれば,適切な参考レベル は,できれば委員会によって提案された 1~20 mSv のバンドで選ばれるべきであると示唆さ れる。」
注3
ICRP Publication 109
緊急時被ばく状況における人々の防護のための委員会勧告の適用 総括
「一般に,緊急時被ばく状況で用いられる参考レベルの水準は,長期間のベンチマークとしては容認できないであろう。通常このような被ばくレベルが社会的・政治的観点からは耐えうるものではないからである。したがって,政府と規制当局またはそのどちらかが,ある時点で,典型的には委員会によって勧告されている 1 ~ 20 mSv/ 年の範囲の下方に,新しい参考レベルを確認し,設定しなければならないであろう。」
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